リテンション

  • 2008.12.09 Tuesday
  • 18:23
 

By 寳閣綾子 

アカデミーに通い始めた当初、最も疲れたのはリテンションの演習だった。リテンションはあくまで記憶増強の訓練であるからメモは取らない。まるで昆虫が触覚をピンと張り巡らすかのように全神経を集中させ耳から飛び込んでくる内容を頭に留めようと必死に努力する。最初は一人一文程度なので大した負荷はかからないが、1人目が1文、2人目が2文目を聞いて1文と2文を再生とだんだん分量が増えてくると、なんとなく講師が恨めしく、暗澹たる気持ちになってくる。こうなるとただひたすら自分に当たらないことだけを願うしかないが、案の定、こういう時に限って必ず当たる。しょうがないので四苦八苦して何とか記憶を絞り出す。このような演習を入門科の時、何度か経験した。苦しみの中で演習を繰り返すうち、まるで頭の中に溝を掘って記憶の回路を作る作業のようだと感じるようになった。掘った溝に水のように情報を流しこみ、脳裏に刻みつける。

効果は思ってもいない形で現れた。当時、私はフリーランスの通訳をしていたが、ある日突然クライアントに「サイマルですか?」と聞かれた。サイマルの仕事ではなかったので、「何故ですか?」と質問すると「サイマルの方はあまりメモを取りませんよね。」と言われた。まるで意識していなかったので、少なからず驚いた。気がつけばメモ取りの量が格段に減っていた。「初めにリテンションありきでメモはあくまでも記憶の補助」と繰り返しクラスで聞いていたその通りだと思い、重ねて驚いた。

こうしてリテンションの訓練のすごさと大切さを痛感した私は自分の経験に基づき授業ではしつこくリテンションの演習を実施している。生徒の皆さんの恨めしそうな気持ちは痛いほどわかりつつ、素知らぬ顔で淡々と実施することにしている。

実を言うと私が生徒の時に再生したのは最長6文程度だったが、私のクラスでは10文から最長14文、少し助け船を出しながらつい最近も再生して頂いた。従って、私が生徒だった時より今の生徒さんの方が遥かに優秀であるということになる。数年後が実に楽しみである。

 

寳閣綾子 サイマル・アカデミー 英語通訳者養成コース講師

高校から大学院までオーストリア、イングランド、ドイツ、スコットランドで過ごす。帰国後、出版社国際部、総合化学メーカー勤務を経て、フリーランスの通翻訳者に。映像、出版、ビジネス翻訳と並行して主に国内外のメディア関連の通訳を担当。その後、エネルギー企業の社内通訳をしながらサイマル・アカデミーで学ぶ。卒業後、現在はサイマル・インターナショナルの専属通訳者として活躍中。

calendar

S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< May 2017 >>

サイマルアカデミー ウェブサイト

Facebook更新中!

Facebook_2.jpg

サイマル翻訳ブログ

サイマル・インターナショナル翻訳部が翻訳にまつわる裏話やお役立ち情報を更新中です!ブログはこちらから

selected entries

categories

archives

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM